清少納言との出会い


今から遡ること千有余年もの昔、平安京に時空を同じくして現れ、世界女流文学 の開祖となった二名の女性がいた。云わずと知れた紫式部と清少納言である。しかしこの 御二方の作品である「源氏物語」と「枕草子」を読み比べると、ある不思議な思いに 駆られるのである。「源氏物語」を読んでも、作者「紫式部」の実像は遥として判らない。 紫式部はまるで不確定性の衣でも羽織ったかの如く、その作品の影に隠れて姿を現さない のである。処が、「枕草子」は、その草葉を開いたとたん、清少納言がそこにいるのである。 何と千年の時を跳び越して彼女は其処に佇み、お喋りながら発刺とした生命力と知力 でもって、迫ってくるのである。彼女こそは、世界で始めて「タイムマシーン」を発明し た女流発明家ではないか。そして彼女は今もそれに乗りながら、時を越えて人々に語らい 続けるのである。否、それだけではない、彼女の描写こそは、おそらく世界で初めての 「近代絵画」であり、「近代画家」の目をもって千有余年前の京の都に出現し、 千年の時を飛び越してしまった「絵画」であり、「写生」であり、時を越えてしまった作家なのである。

楽環

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